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ふしぎ図書室

民話や伝承、ファンタジーやSF、児童文学や漫画など、「すこしふしぎなおはなし」に惹かれるおじさんのつぶやき。

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『少年少女古典文学館3 落窪物語』 氷室冴子 (講談社)

『落窪物語』は、早くに母を失った姫君が、継母にいじめられ、苦労しながらも、やがてすばらしい貴公子とめぐりあい、幸せを得る物語である。このストーリーの基本的なパターンは、シンデレラに代表されるが、古来、世界各地で作られ、今に語り継がれている。平安時代に書かれたこの物語も、みやびな恋物語というより、生身の人間の喜怒哀楽を興味深く描いた大衆文学として、長く読み継がれ、語り継がれてきたロングセラー小説の一つである。


 いやあ、面白い。
 継子いじめのお話ですが、ジメジメはしておらず、カラッとした印象に思えました。
 挿画は、三木由記子さん。なつかしくてあったかい絵だなあと思っていたら、クレヨン王国シリーズの挿画を描いていた方でした。

 前半、娘のうちに数えられず、姉妹のために縫物ばかりさせられている落窪の君がかわいそうでなりません。唯一の味方である阿漕という女房が非常によいキャラクターで、落窪の君を助けてくれるのですが、この子の行動力がなければ、姫の境遇は変わらなかったでしょう。姫にもそんな周囲を動かすほどの性格のよさがあったのでしょうね。

 ヒロインの姫君はあまり行動的でもなく、ずっと受動的な立場を取り続けているので、周囲の人々の活躍が肝になります。平安時代の理想の姫君というのは、こういった感じなのでしょうか。夫となる右近の少将や帯刀らの活躍、弟である三郎君の手助けなど、姫君ではなく、周囲の活躍が姫君を幸せにしていくのです。

 北の方という敵役のキャラクターも際立っていて、ひどい目にあった後でも、こりないというところに軽いショックを受けました。どこまでもぬけぬけとしていて、ここまで突き通せばなんだか逆に好きになってしまいそうなぐらいです。その憎々しいキャラクターとともに、なんだか人間的なかわいらしさみたいなものも垣間見える奥深いキャラクター造形になっていると思いました。

 夫の右近の少将の仕返しのやり口は、なんだか子どもじみていて、好きにはなれませでしたが、地券をたてにお屋敷を取り上げるところなど、前半を耐え抜いた後の、後半の復讐にはやはりスカッとするところがありました。

 同じような系譜の物語もあるということで、ぜひこれらも読んでみたいと思いました。
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『少年少女古典文学館9 今昔物語集』 杉本苑子

表面上では、貴族文化がはなやかに咲きほこった平安時代。だが、ほんのわずか京の裏通りに目をやれば、そこは追いはぎ・盗賊が横行し、人々は災いをもたらす鬼や魔物たちにおびえながら暮らす、混沌の世界だった。「今は昔」で語り出される『今昔物語集』には、受領・武士・僧侶・農民といった、それまでの文学では無視されがちだった人々が主人公として登場し、おかしく、ときにはかなしい人間ドラマを展開する。全三十一巻千話以上からなる一大説話文学から、おもしろくかつ親しみやすい五十一編を厳選して収録する。


 やはり、説話集は面白いです。
 不思議な話とんでもない話が多くて、刺激的です。

 例えば、鷲にさらわれた少女が数年後に実父にと再会する話、犬の鼻の穴からおびただしい絹糸が出てくる話、人間に化けたサナダ虫の話とか・・・。

 一番印象に残ったのは、暴風雨の翌朝に15メートルもある巨人の女の死体が浜辺に打ち上げられていたというエピソード。中央に報告すればしたで、めんどうが増えるだけ。放っておこうというわけで、巨人の死体は腐って悪臭を放ち続け・・・、という話なのですが、まるでSFの名作、J・G・バラードの「溺れた巨人」じゃないですか。

 人を殺してしまうお坊さんとか、泥棒をこらしめるお坊さんとか、お坊さんの人間味が伝わってきたりとか、やはり説話集は人間味ということが感じられるので大好きですね。また、僕は怪力の女性のエピソードが大好きで、このお話にも、五百人力の女性が登場してすてきです。

 
この本では、訳者がひとつひとつ「訳者からのひとこと」をつけてくれています。説話の中では、「なんなの?この話?」というのがたくさんあって好きなのです。訳者が最後に解説みたいなことをしてくれていて、なるほどと思うところもあるのですが、「別にそのまま素直に受け取ってもいいじゃん」、とか、「当時の人々の価値観を否定することないんじゃ?」などと思ってしまうところもありました。

『少年少女古典文学館7 堤中納言物語 うつほ物語』 干刈あがた 津島佑子

『堤中納言物語』には、いまに通じる個性的な人間像が、あふれる機知とユーモアで描かれている。毛虫を愛する型破りなお姫さまや、片思いに身を焦がす憂愁な貴公子などの登場人物たちが、この世界最古の短編小説集に、いきいきとした生命を吹きこんでいる。『うつほ物語』は、全二十巻という日本最古の長編物語であり、その成立、内容ともに謎をひめた新発見の魅力にみちている。天上の琴を守り伝える芸術一家四代の数奇な物語の背景に、恋のさやあてや貴族の祝祭などの王朝ロマンが、絢爛豪華にくりひろげられる。


 「堤中納言物語」といえば、やはり『風の谷のナウシカ』に影響を与えたという「虫愛ずる姫君」がまず浮かびますが、ほかの物語も面白い。いろんな評にも書かれていますが、まるで近代小説のような内容で、終わり方などもおしゃれでいい。

 「花桜折る少将」や「はいずみ」のユーモア、その他の作品のおしゃれな恋愛など、非常に洗練されたお話が多くて、読みごたえがありました。そして、ひらいたかこさんの挿画がかわいいうえにこれまたおしゃれで綺麗でよかったです。
 が、やはり一番インパクトのあるのは、「虫愛ずる姫君」でした。世間の常識に囚われた周囲の人間たちと自らの考えや生き方を自然と貫いている姫君との対比があり面白い。姫君のセリフひとつひとつが含蓄がありいいのです。

 「うつほ物語」にはびっくりしました。
 まずは異国への漂流譚となっており、世界観の大きさを感じます。
 そして、阿修羅が出てきたり、天人が空から降りてきたり、仏さまが出てきたり、すごいことになっています。そして、不思議な力を持つ琴をもらったりするなど、ファンタジー色の強い物語になっています。
 そして、音楽の持つ不思議な力の物語ともなっていて、遠い昔に、このように音楽を中心とした作品があるということに驚きです。これまで、平安の物語といえば、なにか貴族社会の恋愛の話を繰り返し繰り返し読んできたので、それ以外のところをメインに据えた話を読むことが新鮮でした。
 ただし、語り口は、作者の工夫で、原典はまた全然違うようなので、ぜひ原典の方も確認して読み比べてみたいなあと思いました。

 そして、干刈あがたさんや津島佑子さんの作品も昔から気になっているので、読んでみたいなあとこれまた思いました。

『少年少女古典文学館13 古今著聞集ほか』 阿刀田高

王朝貴族社会をなつかしみながら、中世の人事百般や鳥獣、虫、妖怪にまで筆がおよび、整然と分類された説話の百科事典ともいえる『古今著聞集』。「少年の教科書」として読みつがれ、簡明でおもしろい教訓の宝庫である『十訓抄』。そして『沙石集』は、狂言や落語にまで影響をあたえ、仏教書としてはめずらしく、笑いと人間味にあふれている。


 子ども向けに平易な文で書かれていて、しかも語釈や語注が充実しているよい古典の本です。すべて現代語訳されていて、現代風にアレンジされているところもあり、子どもが古典に興味を抱く助けになる本だと思いました。

 説話文学というのは、テレビでいえば「奇跡体験アンビリーバボー」みたいなものだと思うのです。こんなできごとがあったらしい!ということを民間に流布している話を再話するという意味では共通部分があると思います。

 そういう意味で、よく外国の犯罪事件が取り上げられているように、『古今著聞集』にも犯罪の話があって、面白いです。特に女盗賊の登場する「美しい盗賊」はミステリー要素もあり、犯人の意外性といい、とても印象に残る話となっています。相撲取りに稽古をつけてあげる力持ちの女の人もいたり、魅力的な人物が説話集には多いですね。

 『十訓抄』で印象に残るのは、強盗に家のものを取られたのに、強盗が落としていった盗品をわざわざ届けてあげる尼の話です。何度読んでもすごい性格してるなあと感心してしまいます。
 こちらの本にも尼僧を首領とする盗賊が現れていて、面白いですね。

 どの本にも人間味を感じるお坊さんたちがいて、現代よりも寺社というものが身近だったのだなあと感じます。子どもに教訓を説いたお話ということで、ユーモアたっぷりに描かれているものもあり、たいへん楽しめる一冊でした。

プロフィール

HN:
A・T
年齢:
40
性別:
男性
誕生日:
1983/08/31
自己紹介:
ジブリとSFと児童文学とマンガが三度の飯より大好きなおじさん。

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