財産争いをめぐる悲喜劇「牛と刀」、夜の芝居小屋で起きる怪談「真夜中の舞台」、金もうけに取りつかれた男の運命「わるだくみ」など、笑いと悲哀がまざりあった世の姿を、鋭く描き出す7編。江戸時代の作家、井原西鶴の作品を読みやすく翻案。
いやあ、なかなか面白い。
夢中になってしまい、思わず一駅乗り過ごしてしまうくらいでした。
井原西鶴の作品を翻案したもので、構成されている短編集。
けっこう強烈なキャラクターの出てくる話が多く、どことなく話の感じが西日本的です。
東京風の洗練された漫才・コントよりも、関西系のアクや毒が強い傾向とでもいったらいいでしょうか。
ただし、笑い飛ばすというよりは、人生の悲哀というものが最後には浮かび上がってくる作品集になっています。
「牛と刀」では、兄弟仲を犠牲に手に入れた刀が結局は金銭的には無価値だったが、それを持ち続ける兄の姿になんとなく「もののあはれ」を感じるのです(全然的外れな言葉かもしれませんが)。
「ぬけ穴の首」は、仇討ちものですが、それが失敗するというスカッとはしない終わり方になっています。途中、前世からの因縁が原因で、こういった事態になっているという先祖からのお告げの夢を見ます。しかし、
憎しみの連鎖を断ち切れず再び仇討ちに向かうところに、この話の奥深さがあると思いました。読後の余韻がすごい作品です。
「お猿の自害」は、もっとも印象に残った作品。駆け落ちして逃げてきた夫婦に、ペットとして飼われていた猿が、よかれと思った行為で赤ん坊を殺してしまい、
自害してしまう話です。あまりにやり切れず、また、先が気になり、職場の駅に停まったことも気が付かず、数年ぶりに乗り過ごしてしまいました。
ストーリー的に一番面白いのは、
「帰って来た男の話」です。行方不明になっていた豊かな農家の主人に瓜二つの貧しい男がなりすますという話です。
記憶喪失になった演技や天狗にさらわれたふりをしたりして、男になりすましていくようすは、
クライムサスペンスのようでドキドキします。男になりすました後は、行方不明の主人がかつてやっていたように懸命に働き、家族にも責任感を持っていく様子も納得できて、胸にこみ上げるものがありました。最後、正体がばれそうになるのですが、長老たちの出す結論にも、人生の哀感が漂います。けっしてハッピーエンドというわけではないと思うのですが、ほっとしました。
他にも、きつねに化かされる話や金儲けに囚われた男の話、人形の動き出すホラーなど
西鶴の多彩さが伝わってくる作品集でした。
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