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ふしぎ図書室

民話や伝承、ファンタジーやSF、児童文学や漫画など、「すこしふしぎなおはなし」に惹かれるおじさんのつぶやき。

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『ぼくたちもそこにいた』 ハンス・ペーター・リヒター作 上田真而子訳 (岩波少年文庫)

『あのころはフリードリヒがいた』の続編。優等生のハインツ、時代の流れに素直には従えないギュンター、そして“ぼく”―ヒトラー・ユーゲントに入団した3人のドイツ人少年が経験したことは?戦争へ突入していく日々を淡々と描く。


 ディストピア小説を読むようです。
 戦争は子どもたちをも巻き込んでいく。
 まだ、自分たちの価値基準を確立できていない彼らにいろんなものを植え付けながら。





 遠いドイツの状況は、いろんな媒体で知る我が国の戦時中の愛国少年たちの様子と不思議なほどに重なります。それは、戦争に翻弄される大人たちの様子もそうです。改めて、全体主義というものの恐ろしさを感じました。

 物語には三人の人物が登場します。
 特に印象に残るのはギュンターです。
 父親はナチに反対していて、ナチスにしか投票できない投票用紙に抗議をし、投票所で大きな声で講義を行うような人間でした。ギュンターはそうしたくありませんが、ドイツ少年団に入団します。親友二人にはドイツ少年団でのことは、楽しくないと告白します。

 しかし、時代の流れに対して抗うことはできません。
 上官の暴力の横行、理不尽な命令、世の中に従うことしか、子どもたちにはできません。
 そして、彼らも戦争に加担していくことになるのです。
 一方ではなんらかの疑念を抱きつつも、一方では積極的に戦争に加担していく。
 この矛盾はいったいなんなのだろうと思いながら読んでいました。しかし、大人の小説を読んでも、なぜ私たちは戦争に進んでいったのかというテーマの作品は多いのです。子どもたちにそれがわかるはずもないでしょう。読んでいて、暗澹とした気分になります。

 フリードリヒも一場面だけ登場します。
 少年たちのいじめにあうフリードリヒを幼馴染の「ぼく」は救い出すことができませんが、ギュンターは声を上げて助けようとします。
 戦時下にも正義や友情はあり、それだけがこの物語の救いです。

 最後の戦闘のシーンにおいて、再会する三人の少年。その悲劇的な最後に関わらず、彼らの友情がそこにあったというのは紛れもない事実で、こういった悲惨な現実の下で生きていなければ、彼らはどのような人生を歩んだのだろうかと想像せざるをえません。

 戦争の記憶を語り継ぎ、伝えることは大事だ、という思いと、しかし、それを誰かに伝える、思い出すというのは、つらい作業でもあるのだろうなという思いの交錯する、そんな作品でした。
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プロフィール

HN:
A・T
年齢:
41
性別:
男性
誕生日:
1983/08/31
自己紹介:
ジブリとSFと児童文学とマンガが三度の飯より大好きなおじさん。

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